WHITE INCARNATION / the pillows

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リリース:1992年


トラック

  1. カラフル・パンプキン・フィールズ
  2. 彼女はシスター
  3. ペーパームーンにこしかけて
  4. このままここで
  5. サリバンになりたい
  6. 気にしてないよ
  7. ブルーマーチ
  8. 夜明けがやってきた
  9. TONIGHT
  10. 僕らのハレー彗星
  11. GOOD NIGHT

紹介 / 感想

ポニーキャニオンからリリースの2ndアルバム。1stアルバム『MOON GOLD』に続いて、メロディアスなバンドサウンドを聞かせるアルバムに仕上がっている。
後年にセルフカバーされた「サリバンになりたい」というビート重視のトラックなんかもあるものの、アルバム全体としては前作に比べるとアッパー路線の曲はあまり見られず、ミドルテンポでじっくりと聞かせる曲が多い。黄色の空に雲が浮かぶジャケットも相まって、どこか鮮やかで浮遊感のある印象を受けるアルバムで、メロディバンドとしてのピロウズのさらなる進化を感じさせる作品だ。
正直なところ、ピロウズ第一期って、あんまり熱心には聞きこんではいなくて。この記事を書くために改めてじっくり聞き返したんだけど、気がついたらずっと口ずさんでしまってる自分がいる。
特にこの『WHITE INCARNATION』はいいアルバムだと思うな。

なお、本作を最後に当時のリーダーである上田ケンジ(Ba)が脱退。当時山中さわお(Vo/Gt)は解散を考えていたものの、真鍋吉明(Gt)と佐藤シンイチロウ(Dr)には継続の意思があり、結果としてピロウズは山中リーダーの新体制として、スリーピースバンドとしての再スタートを切ることになる。1


アルバムの話題に戻ろう。シングル曲はトラック2の「彼女はシスター」。軽快なリズムと心地よいメロディで聞かせる良質なポップソングで、楽しく聞くことができる。
アウトロでストーン・ローゼズみたいなグルーヴが出てくるのも面白い。第一期のピロウズは特にブリティッシュ・ロックからの影響を感じることがあるが、あくまでフレーズや音色の共通点に留まっており、この曲にしても全体としてはストーン・ローゼズのようなグルーヴィーさで聞かせるタイプの曲ではなく、あくまでもギターサウンドの歌モノという感じ。このあたりに、彼らのスタイルが出ているように思える。


この頃山中さんはジャズやボサノバに関心が出てきていたらしく、2トラック9の「TONIGHT」はその片鱗が見えている穏やかなナンバー。めちゃめちゃ美しくて、好きだ。
ピロウズの歩みを網羅している人であれば、この後スタートする、様々な音楽ジャンルを取り込んでいた第2期の片鱗が見え始めた曲……という意味でも、面白く感じられるのでは?


夜繋がりのラストトラック「GOOD NIGHT」もいい。モータウン風の軽快なビートに乗せて奏でられる美しいギターアルペジオがたまらないな。ちなみに、この曲を含むトラック1,3,4,7,11という約半数が上田さんの作曲。3山中/上田体制の最後のアルバムとなった本作だが、両者の手がけた楽曲群はアルバムの中でうまく調和している。


あと外せないのが、今作や第一期の時期に留まらず、ピロウズの歴史全体でも傑作としてひときわ輝きを放つ、厚みのあるロックバラードの名曲「僕らのハレー彗星」だろう。セルフカバーアルバムに収録されたこともあり、ファン人気も高いのでは。自分も初めて聞いたときは「初期にこんないい曲があったなんて!」と衝撃を受けた記憶がある。
歌詞も良い。形式としてはラブソングなのだけれど、この曲は75年周期で地球に姿を見せるハレー彗星を題材に、過ぎ去る時間の中で全てが変化していくことを見据えつつも、それでも今この時が続くことを祈りに込めている。
ハレー彗星が地球に近づいたのは、前回は1986年のことらしく、ピロウズ結成の1989年の少し前の出来事だ。一方、次のタイミングは2061年と言われている。これは今から36年後の未来のことで、2025年なんてまだまだ折り返しぐらいだ。(次のハレー彗星の頃にはメンバー全員90歳超え!)
でもこの間に、上田さんは脱退して、ピロウズはその後もいろんな曲を作って、そして今年、解散してしまったんだな。「ずっと ずっと ずっと 2人でいたいよ」何もかもが変わらずにはいられない33年を経た今、この曲の歌詞は今までとはちょっと違う形で、じんと心に沁みる。いつかハレー彗星が来る時、またこの曲を改めて聞きたいな。


君も気がつけば 今のあどけない笑い方は忘れて
もしかしたら 僕だってこわれて歌えないかもしれないよ
回り続けてるこの星も いつか眠る日が来るさ
だけど嘘じゃないよ 君が必要さ どんな時も

僕らのハレー彗星 / the PILLOWS



さて、このあとのピロウズは1年ほどの休止期間を経て、以降は第2期と呼ばれる時期に突入するのだけれど、その話はまた次のアルバムで。





  1. the pillowsの “ライブは願望だ、意味じゃない!”【第2回】1993年〜 “第二期”、1996年〜“第三期”のライブ ↩︎

  2. 「the pillows cast [1989-2009] 20th Anniversary Special Edition」内「interview 1992.6.3」より ↩︎

  3. 「the pillows cast [1989-2009] 20th Anniversary Special Edition」内「Discography」より ↩︎


Written By

アイコンに設定しているのはブルーアーカイブに登場する音楽ファン・鬼方カヨコさんであり、末茶藻中本人ではありません。