リリース:1992年
リリース:1994年
トラック
- モノクロームラバーズ
- 恋のスパイに気をつけろ
- 公園~黄昏のワルツ~
- SHA-LA-LA-LLA
- TOY DOLL
- NAKED SHUFFLE
- 開かない扉の前で
紹介 / 感想
前作『WHITE INCARNATION』を最後に、当時のリーダーであった上田ケンジ(Ba)が脱退したザ・ピロウズ。山中さわお(Vo/Gt)は「この4人でピロウズ」との想いも強く解散を考えるが、真鍋吉明(Gt)と佐藤シンイチロウ(Dr)は継続を望む。またこの時、脱退した上田さん自身も残った3人でピロウズを続けることを望んでいたという。1
休止期間を経て、最終的にピロウズは山中さんをリーダーとした新体制で、再スタートを切る。いわゆる、ザ・ピロウズの第二期の幕開けだ。レーベルも今までのポニーキャニオンを離れ、この『Kool Spice』からは、後に長い付き合いとなるキングレコードからのリリースとなる。ちなみに、このCDの背表紙は、ピロウズの表記が後にスタンダードとなる、全て小文字の「the pillows」なのだけれど、ここにも「The PILLOWS」から変化したピロウズの姿が表れているかもしれない。
正統派なバンド・サウンドのロックミュージックをやっていた第一期の頃と比べてサウンドは大いに変化しており、当時の「ブリティッシュ・ロックから(※移って)ジャズとかソウルみたいなものに興味を持ち始めていた」と山中さんが後に語っている2通り、今までの路線とは異なる音楽への関心が、収録楽曲にも反映されている。
ところで、私はてっきりThe Jamのポール・ウェラーの大のファンであった山中さんが、ポールがジャムの次にやったThe Style Councilに強く影響を受けた結果、この第二期のサウンドが登場したのだと思っていたのだけれど、どうも因果関係は逆のようで、前作『WHITE INCARNATION』の第一期と第二期の橋渡し的路線の楽曲「TONIGHT」を作った時には、むしろ山中さんはスタイル・カウンシル時代のポール・ウェラーにはあまり関心がなく、後に聞いて衝撃を受けたらしい。3とはいえ、この頃になると流石に影響下にあるのかも。この『Kool Spice』のジャケットって、かなりスタイル・カウンシルのライブ・アルバム『Home And Abroad』に似てるし!
ところで、この時忘れてはならないのが、当時サポートベースを努めていた鹿島達也(Ba)の存在。もともとメンバーのルーツとしてはなかった、あらたなジャンルへの挑戦をするにあたって、ジャズやソウルに精通していた鹿島さんはサポートながらもリーダー的な存在だったと言う。4実際この頃の楽曲を聞いてみるとグルーヴやサウンドの中核にはアグレッシブな鹿島さんのベースがあるように聞こえて、めちゃくちゃおもしろい。このベースがめちゃめちゃカッコいいので、第二期ピロウズを聞くならそこに着目するのも個人的にオススメ。
また、サウンドの幅を広げるにあたって、ベース以外にも上田禎(key)、金野由之(perc)というサポートメンバーも加えており、6人体制でライブを行うこともあったという。
音楽的には大きく変化を遂げたピロウズだが、第一期のメンバー間のすれ違いを一旦解消し、同じ方向を向いて再スタートを切ったピロウズの内情は安定していたらしい。このあたりのピロウズの歴史は書籍「ザ・ピロウズ ハイブリッドレインボウ」などにも色々と書かれており、かなり読み応えがあるので、気になる方は是非そちらを確認してみて欲しい。
さて、どうしてもこの頃はサブストーリーが充実していてついついその話をしたくなってしまうのだけれど……ちゃんとアルバムについても触れておきたい。このアルバムについては、とにかく変貌を遂げて音楽的な幅がぐっと広がったピロウズの音楽が堪能できるのがいい。各楽器陣もそれに伴ってフレーズの幅がグッと広がっている。もともとピロウズはクリーンな音色のギターが目立つサウンドだったけど、トラック1「モノクロームラバーズ」のギターは更にムーディーできらめくギターが炸裂している。これのギター・ソロとかめちゃくちゃ好きだなぁ。トラック2「恋のスパイに気をつけろ」にはドラム・ソロみたいなパートが入っててこれまた面白い。
ゆったり目の前半を経て、トラック5の「TOY DOLL」と6「NAKED SHUFFLE」の、インパクトのあるロックナンバーが続く後半地帯で、アルバムにアクセントが生まれている。「TOY DOLL」は後年にライブで披露されてた時期もあって、自分もライブで聞いたことがある。思わず踊りだしちゃう感じの楽しい曲。ちょっと妖しげなヴォーカルも、山中さんのヴォーカリストとしての進化を感じる。
「NAKED SHUFFLE」は更に全部がカオスになっててこれまた面白い。なぜかベスト盤に収録されてるのでそっちで聞いたことある人も多いのでは?
ラスト・トラックの「開かない扉の前で」は、山中さん得意の暗くて孤独感のある歌詞が炸裂していて、やっぱピロウズのそういう繊細さにも惹かれた身としては、これはかなりお気に入りのバラードだ。「何度もキミのこと誘ってたんだよ / 開かない扉の前でさ」このアンニュイな感じがやっぱりたまらないな。自らを悲しき道化に例えたピロウズの原点の曲「パントマイム」にも通じるところがある。
案外ピロウズはミニアルバムを出す事が少なく、この『Kool Spice』はそういう意味でもちょっとめずらしいアルバムかもしれない。とはいえ、これからこういう音楽をやっていくぞ! と打ち出す幅の広さは全7曲とは思えないぐらい、聞いてるとなんだか盛りだくさんな気持ちになる。
ピロウズ第二期の時期は短く、この『Kool Spice』と次作『Living Field』をリリースした程度となる。ということで第二期の残りの話は『Living Field』の時に、また。
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「ザ・ピロウズ ハイブリッドレインボウ」内「山中さわお」「真鍋吉明」「佐藤シンイチロウ」など ↩︎
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the pillowsの “ライブは願望だ、意味じゃない!”【第2回】1993年〜 “第二期”、1996年〜“第三期”のライブ ↩︎
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「the pillows cast [1989-2009] 20th Anniversary Special Edition」内「interview 1992.6.3」より ↩︎
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the pillowsの “ライブは願望だ、意味じゃない!”【第2回】1993年〜 “第二期”、1996年〜“第三期”のライブ ↩︎
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