リリース
1999年
トラック
- ~introduction for Cicada~
- pool
- Hungry Spider
- HAPPY DANCE~Album Version~
- Star Ferry
- 青春
- STRIPE!
- この傘をたためば
- The Future Attraction
- BLIND
- Name Of Love
- Cicada
[Bonus Track]
- 待ってたぜBABY!
- 待ってたぜBABY!~Backing Track~
紹介 / 感想
マッキーこと槇原敬之といえば、『冬がはじまるよ』 『北風~君にとどきますように~』といった冬をテーマにしたヒット曲をいくつも持つ、冬のアーティストというイメージが根強いのではないかと思われるが、同時に私にとっては同じぐらいに夏のアーティストでもある。
多分、この『Cicada』(蝉)の名の通り、夏を思わせるこのアルバムを、子供時代によく聞いていたからなのだろう。
自分で熱心に彼を追っていたわけでもないのだが、母が昔からマッキーファンであるため、受動喫煙的に彼の歌う曲を聴く機会は多かった。朧げな記憶ではあるが、きっと家族での外出の時、カーステレオから流れるこのアルバムを繰り返し耳にしていたのではないだろうか。なので個人的にはマッキーといえば『Cicada』というぐらいの気持ちなのだが、実際にファン人気も高いらしい。
ちなみに、この直後にドラッグ所持でマッキーが逮捕されてしまっているので、ある意味では曰くつきのアルバムとも言える……。作品としては、掛け値なしでいいアルバムだと思うのだが。
当時街から彼の曲が消えて、母が意気消沈していたことまで、なんとなくセットの思い出としてある。
改めて聞いてみると言うほど夏を直接的にテーマにした曲が収録されているわけでもないのだが、しかしこのアルバムから感じる色を夏一色にしてしまうほどに、冒頭の『Pool』とラストトラックの『Cicada』この2曲は強烈だ。
特に『~introduction for Cicada~』からつながるように始まる『Pool』はめちゃめちゃにいい曲で、驚く。改めて聞いてみると、曲の裏でずっとサンバっぽいパーカッションが鳴っていたりと、驚くぐらい伴奏はリズミカルに仕上がっていることに気がついた。しかし、それとは裏腹にボーカルはずっとゆったりとしていて、全然バックのリズムにマッチしておらず、どこか浮いているようですらあるのだ。
「君にもう一度会いたいな」サビでゆるやかに歌われるこのフレーズの通り、この曲はかつて夏を共に過ごしたガールフレンドのことを回想している曲である。「氷いちごの真っ赤な舌で笑ってた」マッキーお得意の、平易な言葉遣いながらも情景が鮮やかに思い浮かぶこの巧みな表現の上で、しかしこれら鮮やかな夏の情景描写が、常にどこか遠いものとしても感じられるのは、この歌唱と伴奏の生み出すコントラストによるところもあるのではないだろうか。賑やかな夏とガールフレンドの姿は記憶の中にあるため、どこか朧げなのだ。
穏やかなマッキーの声の響きによって、思い出は美しくも、薄いヴェールの向こう側に隠されてしまうよう――そんな幻想的な心地を味わえる曲だ。
他にも、悲恋を蝶を逃がす蜘蛛に例える妖しげなヒットシングル『Hungry Spider』、別れの夜をラテンっぽい曲調でビターに彩る『HAPPY DANCE』、フェリーと夜空の異国の情景が広がる『Star Ferry』などなど、どちらかといえばどこか内向的/ほの暗い/落ち着いたトーンの楽曲が並ぶアルバムだ。
ラストトラックの表題曲『Cicada』も良い。「伝えたいことがあるから/君の住む町にきたよ/忘れないでほしいから/うるさく鳴いてみせるよ」蝉をテーマにしたこの曲のこのフレーズは、マッキーの歌う姿勢を表現しているようにも感じられる。アルバムの持つ色とも相まって、どこか儚くも切実なものを感じ、ぐっときてしまう。
是非晩夏の、日が落ち始めた夕暮れの頃合いに、のんびりと聞きたいアルバムだ。
まぁ、ここまで書いていた内容がどれもこれも全く当てはまらない、爽やかでスポーティな、スキーがテーマの楽曲『STRIPE!』が中盤に収録されているのもご愛嬌。
でもこれも凄くいい曲なんだよなぁ。「青い空と白い雲のストライプの大きな布を/神様が目の前で 広げたら」この一撃で炸裂する表現が強すぎて、この瞬間だけはアルバムジャケットのような緑と黒の落ち着いた夏の光景じゃなくって、青と白のスキー場にひろがる爽快な空が目に浮かんでしまうのは、いいのか悪いのか……ちょっと複雑だ!
ちなみに、初回限定盤にはThunder Babiesっていうマッキープロデュースの謎の(本当に謎)ユニットの『待ってたぜBABY!』って曲がついてて、結構謎だ。子ども心にも謎だった気がする。マッキーと違って正直歌がそんなに上手くないんだけど、平成ニューウェーブ感が強烈な曲も相まって、ちょっとNew Orderっぽくて面白い。今だったらサブスクでも普通に聞ける。
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